久松農園オフィシャルサイト | マーケティングホライズン2016年12月号寄稿『有機農業という冒険』
久松農園(HISAMATSU FARM)筑波山と霞ヶ浦に挟まれた、茨城県南部の土浦市(旧新治村)で、1999年より有機農業を営んでいます。寒すぎず、暑すぎないこの地では、四季を通じて野菜を露地(屋外)で栽培することが出来ます。私たちは、季節の中で育まれる、年間50種類以上の野菜を、お客様に直接お届けしています。代表:久松達央
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マーケティングホライズン2016年12月号寄稿『有機農業という冒険』

マーケティングホライズン2016年12月号寄稿『有機農業という冒険』

07:54 17 12月 in Blog, News
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マーケティングホライズン』2016年12月号に寄稿した原稿です。転載OKとのことなので公開します。

 

『有機農業という冒険』  久松 達央

私はいわゆる脱サラ農家です。年間 50 種類の野 菜を有機栽培し、個人の消費者や飲食店に直接販 売しています。5 ヘクタール(5 万平方メートル) ある畑は露地栽培が中心で、ビニールハウスを使 わずに屋外で野菜を育てています。気温や雨風の コントロールができないため、季節の気象条件に 合った栽培しかできません。夏はきゅうり、トマ ト、ナスなどの高温に適した野菜のみ、冬はキャベ ツ、白菜、大根など低温に適した野菜のみになり、 結果的に旬のものだけを順繰り栽培することなり ます。 自分自身が食べたいものをたくさんつくってお 客さんにも食べてもらいたい、という発想から出 発しているので、常に 10 ~ 20 種類の野菜が収穫 できるような栽培体系を取っています。そのため 私の畑は、ほうれん草、小松菜、かぶ ・・・ と言った 具合に、一畝ごとに品目が変わるパッチワークの ようになっています。

また、顧客に直接販売しているため、一度にたく さん出荷するのではなく、少しずつ切らさず出荷する必要があります。市場に出荷する一般的な農業では、数種類の品目に絞り、一枚の畑に一つの作 物を一気に育てることができます。対して私たちの畑では、たくさんの種類を何回かに分けて作付 する必要があります。空間軸でも、時間軸でも効率 の悪いやり方であることがお分かり頂けると思います。

農薬を使わないことも、生産効率を落とすやり方です。たとえば秋冬のアブラナ科の野菜は虫に 喰われやすいので、何らかの方法で防虫しなけれ ば収穫までたどり着きません。一般には農薬を散布することで虫を防除しますが、私の農場では畝 全体を防虫ネットという網で作物ごと覆うこと で、虫を作物に近づけない方法を取っています。 ネットの費用や、それを設置する人件費は、農薬の コストとは比較にならないほど大きいものです。 野菜づくりのもう一つの大敵の雑草に関しても、 除草剤を使わないので、対策にかなり手を取られ ます。

自分が食べたいものを、片っ端からつくりたい 方法でつくる、というのは趣味の家庭菜園の考え方です。そう考えると、久松農園は巨大な家庭菜園 とも言えます。事業性から出発して全体を組み立 てるのではなく、好きなこと、やりたいことが先に あって、それを成り立たせるにはどうしたらいいかを、実際に走りながら考えているイメージです。

ではなぜそんな非効率な農業が成り立っている のか、といえば、徹底したプロセスの合理化・効率化と、スタッフの高いモチベーションがあるから です。既存の農家が経験や勘に頼ってなんとなく やってきた栽培の工程を、誰にでも再現出来るよ うに言語化・数値化する。IT を使って、栽培から 販売までのノウハウの蓄積・情報の共有を行う。そんな仕組みの下に、農業が大好きな人が集まり、喜びを持って仕事に取り組んでいます。皆が常に改善を考え、アイデアを出し合うので、生産性は年々 向上します。しかし、コアにあるのは全く非効率な 多品目直販型有機農業。極めて非効率なものを、とことん効率的にやっているというおかしな構図で す。

生産性は年々向上、などと言ってしまいましたが、その歩みは農業全体の中では決して早いもの ではありません。近年は農業の世界でも、生産工程 の構成要素を規格化・標準化して全体設計を行う 「モジュール化」が進んでいます。植物工場がその 最たる例です。植物工場の生産性の高さは、工程管 理が複雑で温度や水分が制御できない有機露地栽 培とは、比較になりません。

そんな有機農業の何が面白いのか。逆説的ですが、うまくいかないことそのものが面白い、と私は 思っています。制約が多くて、簡単に解決できない と、否応なしに知恵を絞ります。人がコントロール できる要素が少ない中で勝機を見つけるその工夫こそが、私にとっての農業の最大の魅力なのです。 電池を使った現代のおもちゃと江戸時代のぜんま い仕掛けの人形を比べた時、私は圧倒的に後者が 好きです。考え抜かれた「からくり」に美しさを感 じるからです。有機農業の「機」は英語で言うシス テム、すなわちからくりのことです。そもそも「有機農業」という言葉は、生き物のからくりを生かす農業、という意味なのです。

この原稿のお題は、「最速最短ではないところ にある価値」でした。速く、短く行きたいのは、向か いたいゴールがあるからです。今回あらためてマ ジメに考えましたが、恥ずかしながら、私には到達 したいゴールというものがありません。もちろん、お客さんにおいしい野菜を届けたいという思いは 常にあります。でもそれはゴールではなく、仮の道しるべです。農業をしていると、必ず困難にぶつか ります。悪天候で作物が全滅したり、大震災で顧客が離れたり。それは大変なことですが、同時に興奮 する出来事でもあります。泣いたり怒ったりしな がら、その困難を乗り越える快感こそが、私を突き 動かしているからです。制約が多いから必死で工 夫する。結果として、いいものが出来てお客さんも 喜ぶ。そうやって、いつまでも飽きずに事業が続い ていくのなら、ゴールから逆算して合理的に全体 を組み立てないのもちょっとはありなのではない か、と無理やり自分を正当化しています。

ジョン=レノンの名曲“Beautiful Boy”の歌詞 に、“Life is what happens to you while you are busy making other plans.(人生とは、何かを計画 しているときに起きてしまう別の出来事のこと)” という一節があります。私にとって有機農業は、進 んでいくと色々楽しいハプニングが起きる歩きに くい道と言えます。その意味では、私にとって有機農業は、事業ではなく、冒険のようなものなのかも しれません。

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