出たとこ勝負で走らせて
小学生の男の子の大舞台といえば、なんといっても運動会のかけっこです。僕は平均よりは足が速い方でしたが、もうすぐ順番が回ってくる時の「やべー、どうしよう」という、泣きたくなるような、逃げ出したくなるようなドキドキを覚えています。
社会人になってから時折、ああいうかけっこ前のような場面が少なくなったなーと感じました。もちろん「やべー」場面はたくさんあるのですが、場数を踏むうちに、ある程度事前に準備するようになるし、何とかなるだろう、いう慣れが出来てきます。それは仕事の上ではむしろいいことですが、たまにはああいう場に遭遇したいという思いもどこかにありました。
農業を始めてからは、幸か不幸か「どうしよう」に何度も出くわすことになります。
・イケイケで攻めて田んぼにトラクターをはめて、救出用に借りた他人のトラクターをさらにはめて大迷惑をかける(← ダメ)
・運送会社と強気で交渉していたら、ある日突然運賃の大幅な値上げで報復され、ビビって謝罪に行く(←ダメ)
目の前が真っ暗になる、という表現が実際に起きるのを知ったのもこの仕事を始めてからです。でも、玉が縮み上がるような(失敬!)状況に追い込まれた時、これまで培ってきたものを総動員して、この局面を打開しようと心臓がバクバクするほど興奮します。そんな時、あ、これはかけっこ前のあの気持ちだ、と思い出すのです。
ぶっつけ本番のことを英語でtake potluckと言います。ポットラックとは持ち寄り、あり合わせの意味。今あるものをかき集めて何とかするということです。
年を取ったり、人を雇ったりして、失いたくない物が増えてくると、「やべー」に追い込まれないように、正しく無難な道を行こうとします。それはオトナとして間違っていないのかもしれませんが、そういうクセが付いてしまうと、本当の自分に嘘を付いて他人の人生を生きることにもなりかねません。
僕は追い込まれて興奮するのが好きなのです。必然的に一定の確率で失敗しますが、興奮の快感はモルヒネのように失敗の痛みを癒やしてしまいます。
たとえ不十分でも、神経を研ぎ澄ませて、今の自分を出し切って一か八かの勝負に出る。今年はそんな場面に出会える気がして、ちょっとワクワクしています。
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