Où allons-nous ?
「迷ったときに進むべき方向を指し示す会社のコンパスが欲しい」とフシミに詰め寄られ、一晩考えてしまいました。このセリフで言われたわけではありませんが、僕なりに解釈するとそういうことです。確かに、僕たちが日頃から考え続けている「丁寧なものづくり」や「食べてくれる人への奉仕」や「業務の効率化」は、いかに(how)前へ進むか、であって、なぜ(why)進むのか、どこへ向かっていくのか、の問いに答える物ではありません。
僕自身は、大きな野心がない、あるいは必要としていない人間です。体の中でマグマのようにドロドロになった好奇心や興奮が地面を持ち上げて出口を必要としていて、たまたま爆発を起こしたのが農業という火山だったのでしょう。15年経った今も噴煙は上がり続けている状態です。
僕が語る有機農業は、「我が内なる極私的有機農業」です。心のなかで大切に輝いているもので、誰の手にも触れてほしくありません。「僕の大事な有機農業を、お前らの手垢にまみれたものと同列に語らないでくれ」というのが本音です。
『小さくて強い農業をつくる』の中でこう書いたとおり、なぜ有機農業でなくてはならないか、なぜお客さんに届けたいのか、については、簡単に言いたくないこだわりがもちろんあります。若い頃からさんざん考え、他人と議論してきたことですが、言葉にした瞬間に陳腐になるので、安易に語ることはしない、といつからか決めて封じ込めてしまいました。チームで仕事をするようになった今も、分かりやすい方法論や働ける場は提供するが、どうやって生きていくか、とか、なぜ農業に取り組むのか、とかそんなことは各々が心の中で大事に持っている物だし、仕事の中で目に見えない形で互いに尊重できればいいじゃないか、と思っている面もあります。僕自身、会社員だったときも、そういう部分は他人に見せようとは思いませんでした。
しかし、今のステージでは、久松農園がよりいい農園になっていくために、皆で共有でき、参照できる分かりやすい経営理念があった方がいいし、必要だと言うことは感じています。それはやはり、僕が一人で決めて押しつけるものではなく、メンバーそれぞれがぼんやりと持っている仕事のミッションを聞き、束ねていく中で輪郭が見えてくるものだろうと思います。
大きな課題が持ち上がったとき、僕はけっして逃げることはしないのですが、孤独に抱え込んでしまいがちなので、人の力を借りて明るくつくっていきたいと思います。
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