何かを始めたいあなたに
起業というのは、フツーに勤めている人にとってはとてつもなく勇気がいる事に思えるかもしれない。私自身、会社を辞めるのはずいぶん大きな決断に思えた −−− その時は。
しかし、明日が見えないのはみんな同じだという事はちょっと考えれば分かる。今日の次は明日、明日の次は明後日が必ずやってくると思うのは全くの幻想だ。明日自分や家族が交通事故に巻き込まれるかもしれない。足元で大地震が起こるかもしれない。会社の規模とか年収とかに人々は必死にしがみついているが、そんな人生のよりどころを鼻で笑うような理不尽なサイコロを、神は投げる。永遠に、休みなく。
何も考えずに”思い”だけで突っ走るのはもちろん無謀だ。思いつきや夢で一生食べて行けるような甘い果実は、少なくとも日本という木からはもぎ尽くされてしまった。しかし、どんなに周到に準備をしても、リスクは減りこそすれなくなる事は絶対にない。人も環境も日々変化する。準備などというのは今日の自分が今日の目標に向かってするもので、明日にはちょっとだけ現実とずれる。ひと月後にはずいぶん綻びが目立つようになる。一年後には役に立たなくなる。つまり全ての計画は経時劣化する。だからどこまで行っても、決断というのは「エイヤッ!」なのである。万端な準備などというのは存在し得ないのだ。
何かを始めたい人は、見えるわけもない暗闇を照らす明かりを必死に探すのではなく、暗闇は暗闇のままで、その中に踏み出す自分を信じる事に努力した方が早いと思う。頭でよく考えて、腹で決める。わけもなく人を好きになることがあるように、自分を好きになる事の根っこにも何もない。自信とは、わけもなく自分を好きになる病、と言えるだろう。
それでも踏み出せないあなたに、私がとっておきの秘密をお教えしよう。
恐怖は永遠に克服できないが、すぐに慣れる。
明日の暗闇は一向に明るくならないが、一歩目より二歩目、二歩目より三歩目の方が怖くなくなるのだ。そしてある日、何も感じなくなる。行く先が明るくなったわけでも、自分が強くなったわけでもなく、ただ恐怖を感じなくなっただけ。
ようするに起業家というのは、恐怖が麻痺した異常者なのである。
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