ここで何を盗むかはあなた次第だ
短期の農業研修を繰り返して就農準備をしていた頃、1週間ほど学ばせて頂いた四国の農業塾の玄関に掲げてあった言葉。
「この塾で何を盗むかはあなた次第だ」
馬を水場まで連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない、ということわざがある通り、教える側にできることは場を用意することだけだ。いい場づくりの工夫や努力は必要だが、そこで何を学び取れるかは、能力・意欲を含めて学ぶ側に依るところが大きいと思う。
本人次第と言っても、未成年のような若い頃は、どうしていいかも分からないので、ある程度道筋を付けてあげたり、時には怒ったりして、強引に「水を飲ませる」ことも必要かもしれない。しかし、大人に対しては、たとえそれがどんなに未熟な相手であっても、水場を用意する以上のことを周りはしてあげることが出来ない。
久松農園には農業研修を希望する人がやってくる。上記の例で言えば、久松農園は大人のやり方を取っている。週休2日だし、きつい労働はさせないし、学ぶ材料は惜しみなく提供している。同業者がびっくりするような恵まれた環境だと思う。しかし、ヌルい環境というのは、自らへの厳しさが求められる環境でもある。仕事をこなすだけこなして遊んでしまおうと思えば遊んでしまえるし、腹の底から自分と向き合い、現場と向き合う努力をしなくてもやり過ごせてしまうからだ。自分を追い込むことが出来ない人、本当の目標を見定めることができない人には、鞭打って無理やり仕事に向かわされる環境のほうがむしろ親切なのかもしれない。
それでも久松農園はそういうやり方はしない。好きではないし、有効でもないと思うからだ。遠回りのように見えても、自らの意思で水を飲むのを待つしかないのだと思う。
学ぶ意欲があり、本当に知的で面白い仕事をしてみたい人にはこの上ない環境だと思う。それを生かせる人と一緒に仕事をしてみたい。
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